私が作るガトーショコラは小麦粉を使用せず、ココアパウダーも使わない、1998年の創業当時の洋菓子界のセオリーからは外れた製法だったかもしれません。使用していたクーベルチュールは最高品質のものでしたし、カルピス社製のバター、そして卵にも絶対の自信をもっていました。つまり素材に絶対の自信があったわけです。
私独自の火入れ（外はカリッと、中は半生に焼成する方法）のやり方は、当時の洋菓子業界では手掛けないお店がほとんどでした。チョコレートもバターも卵も、本来は生でも食べられる食材。焼きすぎて味や風味を台無しにしてしまうのは料理として失敗です。
一方で「同じ味は落ちているのと同じ」というのが私の信条。味の向上を目指し続けました。2013年に素材を見直す時期があり、その時に出会ったのが「DOMORI」でした。それまで使用していたクーベルチュールより遥かに高価でしたが、「クリオロ100％」シリーズの「チュアオ」で限定生産した「クリオロ種カカオ100％のガトーショコラ」が大好評だったのです。私自身こんなチョコレートがあるのかと驚きました。ワインで言えばプルミエ・クリュとグラン・クリュの違いくらい質が違いました。
翌2014年、ジャンルーカ・フランゾーニ氏が「ケンズカフェ東京」を訪れます。それからは、私のガトーショコラに「DOMORI」は欠かせない存在になりました。ベネズエラのクリオロ種のカカオで作るようになってから、私が理想とするガトーショコラが完成したと言えます。
お客様の味覚が作り手の味覚を超える時代、いい素材を惜しみなく使った商品とそうでない商品はすぐに見分けられます。「DOMORI」との出会いは、運命であり必然であったと思います。